富山駅前 昭和劇場



6月28日(日)午後4時~4時55分
「富山駅前 昭和劇場」
昭和の風情漂う小さな居酒屋が今年4月30日、半世紀にわたる歴史の幕を閉じた。JR富山駅前の富劇食堂街(富山市新富町)の居酒屋「初音」だ。終戦直後の1950年(昭和25年)に建設されたビルは老朽化が進み、近く解体される。店を1人で切り盛りしてきた「初音」のお母さん(79)は、営業最後の日も手の込んだ料理でもてなした。お母さんの優しい人柄に惹かれて、カウンターは常連客の笑顔であふれた。「初音」は疲れた心を癒す岸辺だ。「ありがとう・・・」常連客はそう声をかけて、名残を惜しんだ。
富山駅前にはもうひとつ消えゆく街区がある。富山市桜町のシネマ食堂街だ。1959年(昭和34年)に開業し、映画館「富山シネマ劇場」を中心に最盛期にはおよそ30の飲食店が軒を連ねたが、2007年に映画館が廃業し、今は11店舗を残すだけである。錆びて汚れたアーケード、薄暗く狭い路地、古びた店が肩を寄せ合うように連なる様は、昭和で時間が止まったかのよう。この街区は再開発に伴い今年5月末で入居者は退去し、その後に取り壊される。3年後には18階建ての複合ビルが完成する予定だ。
シネマ食堂街で創業55年のおでん屋「茶文」のマスター中村渉さん(63)ら有志は、取り壊し前の5月下旬にさよならイベントを企画した。食堂街の日常を記録した短編映像などを、閉館した富山シネマ劇場で上映し、一日限り復活させるのだ。しかし映写機は8年以上使っておらず、修理が必要だった。思い出が詰まった劇場のスクリーンにもう一度、映像を映し出すため、かつての映写技師らが駆けつけた。
毎晩、小さな店のカウンターで繰り広げられた人間模様。見知らぬ者同士が席を譲り合い、打ち解けながら人生を語り合った。新幹線開業の熱気に包まれるJR富山駅前、そして消えゆく「昭和」の灯。最後の時、その灯は、戦後という時代の記憶を映し出していた。