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グッドミュージックをフルコーラスでお届けします♪音楽が一番輝いていたあのころに、青春を過ごした人そして、そんな時代の音楽が大好きな人へお届けする30分です。

竹中晃のコラム ポケットにいつも音楽を入れて -ロック・おやじのつぶやき-

第95回 「“渋谷公園通り”のボズ・スキャッグス」

 先月下旬、久々に洋楽ミュージシャンのライブを2本観た。ポール・マッカートニーとボズ・スキャッグスのライブだ。ボズのほうが先で会場は渋谷公会堂、その二日後に東京ドームでポールを観たのだ。

 で、この、スケールも観客動員数も,失礼ながらミュージシャンの“格”もまるで違うふたつのライブだが、ポールもそれなりに感じることはあったものの、結論から言うと、心が動いたのはボズ・スキャッグスのライブだった。

 すっかり暗くなった公園通りを上って渋谷公会堂に着くと、すでに多くの入場者が待っていた。といってもキャパ約2000人の会場なので群衆といったほどではなく、良い具合のほどほどの人数。年齢層はざっと40歳以上65歳前後といったところで、男女比は半々か、わずかに男が多い程度で、意外に女性客が多いのには驚いた。  が、考えてみればボズ・スキャッグスの魅力は声やその小ジャレたサウンドに加えて、彼自身が発する“ジゴロ的な佇まい”にあったことを思い出して納得した。

 そんなわけで開演直前の熱気も大音量のロック系ライブと比べると若干低めで、そのへんもアダルトな雰囲気で悪くない。ただ、男性客はボズを意識してか、“なんとなくチョイ・ワル系”のオヤジが多いのには笑えた。
 と言う私もそのなかの一人だったのかもしれない・・・。

 こうして始まったライブだが、これが良かった。タイトでシャープな演奏をバックに、やや衰えはあるもののボズ・スキャッグスは粋でしっとりとした、それでいてさっぱりもしているという、昔同様の申し分のない唄いっぷりで、69歳という年齢を感じさせない出来だった。

 演奏曲目は今年リリースされたアルバム<メンフィス>からの曲に加えて、ボズの最高傑作アルバムである<シルク・ディグリーズ>からの曲が多くて、とにかくこれが良かった。かくして満員の会場は抑制しつつも盛り上がるという、大人の熱気に包まれたのだ。

 <シルク・ディグリーズ>は1976年にリリースされて大ヒットした名盤で、70年代後半のあの頃、少し大人な感じの店でよく流されていた。

 ボズ・スキャッグスに代表されるそうした“大人の粋なサウンド”は<AOR=アダルト・オリエンテッド・ロック>と呼ばれてとにかく流行ったのだが、そんなAORサウンドが似合う典型的な街が渋谷公園通り界隈だった。

 それまで新宿でタムロしていた若者たちが、社会人という少し大人になって渋谷に移った。そしてちょうどその頃、渋谷ではタイミングよく“パルコ文化”がブレイクしようとしていた。
そんな、今の渋谷のように子供たちの街ではない、少しオシャレな感じが出始めた頃の公園通りにボズ・スキャッグスの<シルク・ディグリーズ>の曲はよく似合っていたのだ。

 “Lowdown”“Georgia”そして“Harbor Lights”。ボズ・スキャッグスが円熟という味を加えて艶やかに唄う<シルク・ディグリーズ>の中の名曲たちを聴いていると、あの頃の渋谷の街並みと“気分”とがゆっくりと、だが次第に鮮やかに“想い”の中で立ち上ってきた。

 と、ふいに心が揺れた。あの時代に流行っていたボズ・スキャッグスの曲を、当時その曲がおそらく日本でいちばん似合っていた場所で、37年後の今、ボズ・スキャッグス本人の生歌で聴いているのだ、と、そのことに気づいて心が揺れたのだ。

 その頃、渋谷の街で特別の何かがあったわけではない。ただ、“歌の記憶と場所の記憶”があまりにも偶然に重なったために起きたエモーションだった。歌には時々、そんなマジックを起こす力があるのだから。

 やがてライブはアンコールとなった。そしてその最後にボズ・スキャッグスは<シルク・ディグリーズ>の中の極め付きの名曲“We’re All Alones”を唄い始めた。歌が、沁みた。

 私は“We’re All Alones”が終わると席を立った。高揚した観客の拍手に応えてボズ・スキャッグスとバンドはセカンド・アンコールのイントロを奏で始めたが、私には他の曲はもう必要なかった。一刻も早く“We’re All Alones”の余韻に浸りながら帰りたかったのだ。

 ガランとしたロビーを抜けて、渋谷公会堂の外に出た。頭上には少し欠けはじめた月が公園通りを照らしていた。


 付記:メモのような・・・。
 ボズ・スキャッグスを観た二日後、ポール・マッカートニーのライブに行った。内容や雰囲気については多くのメディアや人々が取り上げているので一言だけ記すと、やはりポールが“Eleanor Rigby”などビートルズ時代の曲を唄うのを聴くと「良いなあ」と思った。ただ、そう思えば思うほどジョン・レノンの姿が浮んできてしまうのだ。そして、感じるのは“ジョンがいない”という現実だ。
帰り道、“喪失感”が胸を突く。
 
 ただ、とにもかくにも実際に元ビートルズの重要なメンバーによるビートルズの曲の一部を聴いたことで、ほんのわずかだが、見果てぬ夢だった<ビートルズ・ライブという幻想>に“カタ”がついたような気がした。ほんのわずかだが―。
 

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