“転がる石は苔むさない”―ローリング・ストーンズの“持続力②”

いやいや、とにかくこうして50年。彼らのハンパではない持続力にはただただ頭が下がる。
ローリング・ストーンズの曲を初めて聴いたのは中学一年か二年の頃だった。もう四十五年ほど前のことになる。
いつも聴いていたラジオ番組(「9500万人のポピュラーリクエスト」、あるいは「ポップス20」だったか?)で耳にしたのが最初だと記憶しているが、曲は「サティスファクション」か「ルビー・チューズディ」か、あるいは「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」だったか、さすがにそのへんは憶えていない。
とにかく印象的だったのは「サティスファクション」のイントロ。ギターの音をノイズ一歩手前まで歪ませる<ファズ>というエフェクターを使用して音を出しているということなど当時はまったく知らなかったが、ハードに歪んだギターの音が強烈で、一発でノックアウトされてしまった。
思えばこの少し前にはベンチャーズの♪テケテケ~にシビレていたのだが、ストーンズの破壊的なファズ音はあっさりベンチャーズを超えてしまった。もちろんビートルズも好きだったが、中学二年の時点では“衝撃度”という意味合いではビートルズよりもストーンズのほうが勝っていた。
見た目もそうだった。小ざっぱりとして清潔感のあるビートルズに比べて、ローリング・ストーンズの容貌はサウンド同様にいかにもワルそうで不良然としたふてぶてしさがあって、思春期の少年の心を惹きつける“男気のようなもの”があった。そしてそんなストーンズに刺激された私は机の前の壁に「ルビー・チューズディ/夜をぶっ飛ばせ」のジャケ写を貼っていた。
そんなわけでラジオから「サティスファクション」曲が流れると『♪あい・きゃん・げっとのー~』と、聴き取れた部分だけを繰り返し口ずさんでいた。とはいうものの、そもそも日本人はメロディックな曲に惹かれてしまう傾向が強いのか、当時は「サティスファクション」よりも「ルビー・チューズディ」や「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」といったバラード系の方が好きだった。実際、こちらの曲の方がヒットしていたのではないだろうか。
まあ、「サティスファクション」や「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」の本当のカッコよさが分かったのはギターを弾き始めてからのことだったような気がする。
そういえば最近、六十年代の日本の洋楽を特集した雑誌をよく見かける。気になって手に取ってみると、ほとんどの雑誌が<ビートルズVSローリング・ストーンズ>というような、まるで六十年代のロック・シーンがこの二大グループに終始していたかのような内容になっていることが多い。
しかし、これは実感として言うのだが、六十年代には<ビートルズVSローリング・ストーンズ>という図式は成立していなかったと思う。
というのも、あの時代の音楽雑誌の人気投票の結果を見ればわかるのだが、六十年代中後期の日本でのビートルズのライバルはストーンズではなくウォーカー・ブラザーズだった。なかでもスコット・ウォーカーの人気は突出していて、彼らは音楽雑誌の表紙を何度も飾っていた。
確かに先述したようにストーンズの曲もヒットはしていたが、彼らの存在感は“ビートルズには追いつかないものの、そこそこ頑張っているイギリスのメジャーな中堅バンド”というようなもので、さほど大きなものではなかった。
そんなわけで人気ランキングは基本的にビートルズに拮抗する位置にウォーカー・ブラザーズがいて、そのあとにモンキーズが続いているというような形だったと思う。
このようなパワーバランスが変化したのはビートルズが解散含みとなった一九六九年以後のことで、ストーンズが『レット・イット・ブリード』という傑作アルバムをリリースしたことによって、ようやく多様化するロックの時代の中でのローリング・ストーンズの独自性とその魅力が認識されるようになったように思う。
そしてこの時期あたりからメディアの露出内容も変化してロックシーンでのローリング・ストーンズの位置付けが際立ってきたのだが、その時すでにビートルズは解散していたわけで、結局のところ六十年代の<ビートルズVSローリング・ストーンズ>という図式はビートルズの“先行逃げ切り”という形で終わったのだ。
まあ、ビートルズとの比較はともかく、それにしても二十一世紀の現在まで、よくぞローリング・ストーンズは続いてきたと思う。もちろん、彼らにも他の多くのグループ同様に数度のメンバーの脱退と加入があったし、双頭のリーダーであるミックとキースの不仲騒ぎも何度となく報道され、実際に活動停止状態の時期もあった。が、にもかかわらず、兎にも角にもバンドは今日まで五十年間続いてきたのだ。
考えてみるとすごいことで、普通の人間関係に置き換えてみても五十年間続く交友関係というのはそうはない。
ましてや、強烈な個性の持ち主ばかりが集まったロックバンドだ。この五十年の間には創造力と表現力の葛藤や巨額の利害関係など、なんとも複雑な人間模様が繰り広げられてきたに違いない。このあたり、一般人には想像を絶する世界だが、それでもデビューから五十年、彼らは半世紀の時間を共有してきた。そのことにロックファンの一人として驚嘆し、尊敬するしかない。
それにしても“転がる石は苔むさない”とは、まさにローリング・ストーンズのための格言ではないか―。