ブリテッシュ・ロックの時代 ②

前回に続いて60年代のブリティッシュ・ロックについて―ですが、その前に。
おかげさまで『レディオ・グラフィティー~音楽の風に吹かれて』も今月で六年目に入りました。感謝しています。
今後ともどうかよろしくお付き合いください。
さて。ビートルズの登場とその後の革新的なサウンドによって、60年代前半に全世界を魅了したアメリカン・ポップス―カッコよくて可愛いアイドルが唄う、シンプルでわかり易いラブ・ソング―は、一気に過去の音楽になってしまった。つまり、“ポップスからロックへ”と、時計の針を大きく進めたのがビートルズだった。
そしてそんなビートルズを突破口に、多くのイギリスのバンドがアメリカのヒットチャートを席巻することとなった。この現象が<ブリティッシュ・インヴェイジョン>と呼ばれた―と、前回はこの辺りまで書いた。
それにしてもこの60年代中期に起きた<ポップス>から<ロック>の進化―これを“ロック革命”といっても大げさでない―は、極東の片隅でラジオを聴いていた中学生の耳にも鮮やかに映った。
ビートルズによるこのような<ポップス>から<ロック>への転換は一九六五年のアルバム『ラバーソウル』から徐々に始まり、以後『リヴォルバー』『SGT.ペパーズ~』『マジカル・ミステリー・ツアー』とアルバムがリリースされるたびに猛烈な勢いで新たなサウンドが上書きされてきたのだが、決定的だったのが1968年にリリースされた『ホワイト・アルバム』だった。
ご存知のように『ホワイト・アルバム』はロックンロールやブルーズはもとより、カントリーミュージックから前衛音楽までを網羅した“音楽エッセンスの塊り”ともいうべきアルバムで、二枚組みというヴォリュームもあって、圧倒的なまでに<ロックが表現出来る幅と奥行きの可能性>を示した。
そんな『ホワイト・アルバム』に象徴される1968年は結果的にブリティッシュ・ロック元年となった。この年を基点として才能豊かな多くのバンドが“ロックという新しい地平”に現われたのだ。彼らもビートルズ同様にロックンロールやリズム&ブルーズを骨格としつつも、それぞれビートルズとは異なる個性的なアプローチで創造性に溢れたサウンドを創りだし、競いあったのだ。
この“ロック・サウンドの多様性”こそがブリティッシュ・ロックの魅力なのだが、とにかくこの時代の顔ぶれがすごい。例えば、ブリティッシュ・ハードロックのルーツとなったブルーズ・ロック系のバンドにはすでに名を成していたクリームを筆頭に、ジェフ・ベックやピーター・グリーンズ・フリートウッド・マック、テン・イヤーズ・アフターがいて、デイープ・パープル、レッド・ツエッペリン、ロリーギャラガーなどが出番を伺っていた。
そしてピンク・フロイドやキング・クリムゾンなどのプログレッシヴ・ロック勢がいて、そのうえ無名の新人としてアメリカから渡英していたジミ・ヘンドリックスが加わるのだからこれはもう堪らない。
それだけじゃない。ローリング・ストーンズはいるし、この時点ではビートルズも健在だったのだからなんともすごい。
名前を書き出しただけでも目眩がするが、それにしてもあの短い年月にこれだけの才能が現われたことに驚嘆するしかない。イギリスはそう大きな国では無いんだけど。
やっぱり、タイムマシンがあったら、この時代だな。